「ストレス」がもつ意外な二面性


「ストレス」という言葉が持つ先入観
「ストレス」と聞いて、あなたはどのようなイメージを思い浮かべるでしょうか?多くの人にとって、ストレスという言葉はネガティブな響きを持っています。「体調を崩す」「イライラする」「仕事がつらい」といった悪いイメージが思い浮かぶことが多いのではないでしょうか。実際、現代社会ではストレスはしばしば「心身に悪影響を及ぼすもの」として語られます。しかし、果たしてストレスは本当に悪いものばかりなのでしょうか?実は、ストレスにはその「見方」や「扱い方」によって、全く異なる影響をもたらす可能性があります。ストレスがもつ意外な二面性に焦点を当て、私たちがより健やかに過ごすためのヒントをお伝えします。
アメリカの研究が示すストレスの意義
ストレスがもつ意外な一面を示す代表的な研究として、アメリカで行われたとある実験(→外部サイトへ)を紹介します。この研究では、ストレスをどのように捉えるかによって、人々の健康や幸福感にどのような影響が及ぶのかを調査しました。研究が導き出した結論は、ストレスに対する従来の考え方を根本から変えるものとして世界を驚かせました。
実験の内容は次のようなものでした。まず、被験者に日常的に感じるストレスの量と、それに対する考え方についての2つの質問を行いました。
質問①「前年、あなたはひどいストレスを経験しましたか?」
質問②「ストレスは健康に害を及ぼすと信じていますか?」
この質問をしたのち、8年間にわたって彼らの健康状態や死亡率を追跡調査しました。その結果、前年ひどいストレスを経験し「ストレスは悪いものだ」と強く信じている人は健康リスクが非常に高かったのに対し、前年ひどいストレスは経験していた者の「ストレスは無害だ」と捉えている人は、ストレスに殆どさいなまれていないと答えたグループと比較しても、むしろ死亡リスクが低くなっていたのです。
この研究結果について、スタンフォード大学の心理学者ケリー・マクゴニガル氏はストレスを「身体を危機に対応させる自然な仕組み」として説明しています。ストレスを感じたときに心拍数が上がったり、呼吸が速くなったりするのは、体が挑戦や困難に立ち向かう準備をしているサインです。ストレス反応は、脅威だけでなくチャンスに対しても起こるため、適切に使えば時間を有効に活用しパフォーマンスを向上させることができます。ストレスに対する考え方を変えたらストレスに対する体の反応を変えることができるので
ストレスそのものが問題なのではなく、それに対する捉え方が結果に大きな違いをもたらすことが、この研究で明らかになったのです。

ストレスが身体にもたらす「プラス」と「マイナス」
ストレスは身体に様々な影響を与えます。このとき、身体のなかではどのようなことが起こっているのでしょうか。人は不安やストレスを人は不安やストレスを感じると脳の「扁桃体」(→外部サイトへ)が反応します。扁桃体が反応するとドーパミン、アドレナリン、コルチゾールなどのいわゆる「ストレスホルモン」が分泌され身体に変化を及ぼし、心臓や自律神経などに負担がかかります。一時的ならいいのですが、このようなストレスホルモンが長期的に出続けると免疫力や消化機能の低下、不眠、イライラ、うつ症状などさまざまな心身疾患を発症のリスクが高まります。
慢性的なストレスはたしかに悪い影響を身体に及ぼしますが、しかし、それはストレスが必ずしも「悪」だからではなく、適切に管理されなかった結果として現れるものとして理解しましょう。偏桃体が反応しストレスホルモンを分泌するのには理由があります。危険が起こった時に闘争・逃走のため身体の機能を一時的に最大化させるために人間が身に付けた必要な反応です。
裏を返せば、ストレスがポジティブな効果をもたらす場合もありますアスリートが試合前にアドレナリンを分泌させ集中力を向上させたり、締め切り間際のプレッシャーを力に変えたり、被災時に家族を守るためならいつもの何倍も力を発揮できるのは、その好例です。
ストレスをどうとらえるかで人生は変わる
ストレスは避けるべき悪者ではありません。それどころか、ストレスは私たちに成長の機会や新しい可能性、生活の好転をもたらしてくれる重要な役割を担っています。しかし、その恩恵を受けるには、私たち自身の「見方」が大切です。ストレスを敵視するのではなく、それを「挑戦に立ち向かうエネルギー」や「新たな可能性を引き出すきっかけ」として捉えることができれば、ストレスは私たちの味方となります。
もし体への負荷を避けることばかりに意識が向きすぎて日々を過ごしていると、少しの負荷に対しても過敏になり、体のプラスの機能も発揮できず、結局、恐れていたとおりの結果になってしまいます。自分だけ責任や困難を避けようとしたことが伝わると、周囲の友人関係にもマイナスの影響があるかもしれません。
「ストレス」は善にも悪にもなり得ます。あなたがその性質をどう理解し、どのように活用するかによって、ストレスは人生を大きく左右する力を持っています。次にストレスを感じたときには、それを単なる「負担」と捉えるのではなく、「自分を強くするための試練」として考えてみてください。フレキシブルな見方が、あなたの人生をより良い方向に導く一歩となるでしょう。
