コラム

個人 コミュニケーションがよくなる ストレスを感じなくなる

人間関係と幸福の関係が明らかに。

アメリカで行われた75年間にわたる研究の結果

幸福とは何でしょうか?お金や地位、成功を手に入れると幸せになれるのか。それを確かるために、世界最長のアメリカのハーバード大学が行った「ハーバード成人発達研究」(→外部サイトへ)では、75年間にわたり724人の生活を追跡し、幸福感と健康の関係を調査しました。この研究の結果、幸福をもたらす最も重要な要素は「良好な人間関係」であることが明らかになりました。

研究対象者は、ハーバード大学に通うエリート学生から、水道もガスも通っていない貧困家庭に生まれ育った若者のように無作為に選ばれました。研究者たちは、アンケートを取ったり、健康診断の結果を見たり、直接会って家庭生活や学校、仕事、健康状態などのヒアリングをしたりしました。対象者の家族にもインタビューをして毎年これらを記録し続けました。

2009年に結果が発表されたとき、開始当時10代だった対象者は、工場労働者や職人、弁護士、医師など様々な職業人となり、ひとりはアメリカ大統領になりました。中には、アルコール中毒や統合失調症、残念ながら短命で亡くなった方もいました。これらの調査結果が示したことが、健康で長寿で幸福な人に共通したこと、それは、健康で幸福な人生に必要なものはお金でも地位でも名誉でもなく、「良好で恵まれた人間関係」だったということです。

「地位財」と「非地位財」

幸福について考えるとき、私たちはしばしば「お金」や「地位」などの物質的な成功を思い浮かべがちです。これらは「地位財」と呼ばれ、他者と比較可能なもので構成されます。一方で、「非地位財」という考え方があり、これは地位財のように経済的なものや他者の比較から生まれるものではなく、ひとりひとりの内面的な充実感や精神的な豊かさから生まれる「こころの財産」です。良好な人間関係、健康、自由な時間、自己成長や感謝の心などが、「非地位財」の代表例です。
高級車、ブランド品、広い家といった地位財の「所有」によって満たされる幸福感とは異なるものです。地位財は一時的な満足をもたらすことはあっても、その効果は長続きしません。なぜなら周囲との比較が常に伴うからです。たとえば、自分よりも高価な車を持つ人を見た途端、自分の満足感が薄れてしまうのです。地位財の特徴は、華やかで人よりも多く、立派であるか、それが凄いと思われているか、分かりやすく明示できているかです。一方、非地位財は、他者の存在に影響されにくく、自分が見つけた、感じた幸福を大切にしようという気持ちでなので、常に他者と競争し続ける必要がありません。たとえば、家族との温かい会話や友人との楽しい時間は、一時的な物質的満足とは異なり、長く心の安定感をもたらします。

心理学者たちは、「非地位財」により喜びを感じることができる人は、人生においてより幸福を感じる傾向があると指摘しています。一方で「地位財」を中心とする幸福は、常に新しい目標や競争を生むため、心が安定的に安らぐことが難しくなります。「非地位財」は、日々の小さな幸せや感謝を基盤としています。つまり、幸せは得る量ではなく、私たちが何を重視するかで生まれ、それを感じる心があれば感じるものなのです。

また、このハーバード大学の研究からは、地位財に満たされて暮らしていた人が幸福であったという相関はなく、幸せな人生だと語った人は、自ら人を明るくさせたり積極的にボランティア活動に取り組んだりするなど、周囲を人に囲まれて生活していた、非地位財の充実した人々でした。

オキシトシンと幸せの関係

人類は長い間お互いに助け合うことで困難を乗り越えてきました。近年の研究では、人のために活動する時間が多い人ほど自己効力感が高く、時間を長く感じたりストレスが低いということがわかってきました。ある実験では、自分を支えてくれる人を思い出したり、つながっていると考えただけで、ストレス反応が和らぎ、活動のパフォーマンスが向上するという研究結果も発表されています。困ったときお互いに支え合うことで、安心が得られ、勇気になり、そして目標の達成につながります。これは周囲も自分も長期的な幸せの好循環を生み出します。

これは思い込みや、単なる道徳的な話ではなく科学的に証明されいます。例えば、「オキシトシン」(→外部サイトへ)という脳内ホルモンは、「絆ホルモン」や「愛情ホルモン」とも呼ばれ、出産時にも多く出るホルモンですが、誰かを助けたり、励ましあったり、触れ合ったりすることで分泌されるホルモンです。このホルモンが分泌されると、身体のストレス反応も低下させ、信頼関係が高まりも人間関係が良好になり、幸福感が高まることがわかっています。

分泌されることによって、他者に対する信頼感や共感能力が高まるというこのオキシトシンは、助けてもらった人だけでなく、助けた側の人にも出ることがわかりました。つまり、自分で出せるホルモンなのです。だれかのさりげない意識から、お互いが幸せで、健康の好循環を生み出せるということなのです。このような人と人との絆、支援に焦点を当てた日々を送ることがそれがさらに幸福を引き寄せることになるのです。昔では道徳として考えられていた善行が、科学的にも幸福に有効であることが証明されたのです。

大切なのは、「心の財産」

私たちが生きるうえで本当に大切なものは何か。ハーバード大学の研究や「地位財」と「非地位財」に関する考え方、そしてオキシトシンがもたらす健康効果を考えると、幸福を追い求める前に、まずは目に見える成果や他者との比較をやめ、周囲の人々との人間関係を見直し、誰かに与え、シェアすることによる、何かしらの「変化」を感じることが、今日方できる幸せな生き方につながります。

良好な人間関係には、まず身近な人々とのつながりを大切にすること。家族や友人やお世話になった人の気持ちを考えたり、交流を大切にすることで、心が双方の心が安定し、あらたな活力につながります。あらためて普段伝えられない感謝の気持ちを伝えたり、相手の話に耳を傾けたりすることで、より深い絆に変わることもあります。それは、広く多くの友人を作り交流する、という意味ではありません。

幸福は、身近な日常の中のつながりやを大切にする生き方の中に見つけることができます。良好な人間関係を築くことはあなた自身と周囲の人の心身の健康を守り、幸福を感じる最良の方法です。今日からさっそくあなたの「こころの財産」を増やしていきましょう。それが、あなたの豊かな人生を送るための確かな方法です。